イスマエルの亡霊たち

イスマエルの亡霊たち@TOHOシネマズ六本木ヒルズ

東京国際映画祭で鑑賞(二本目)

原題:Ismael's Ghosts [ Les Fantômes d'Ismaël ]

監督:アルノー・デプレシャン

キャスト
イスマエル☆マチュー・アマルリック
マリオン・コティヤール
シャルロット・ゲンズブール
イヴァン☆ルイ・ガレル
アルバ・ロルヴァケル
ラースロー・サボー
イポリット・ジラルド
ジャック・ノロ

【作品解説】

撮影入り直前、死んだと思われていた前妻が姿を現す…。

A・デプレシャン監督の新作は、期せずして奇妙な三角関係に陥った映画監督の日常と、彼の創造する映画とがモザイク状に組み合わさった愛のドラマである。若き外交官のイヴァンは世界中を飛び回るが、その意味を理解していない。イヴァンの物語を映画にするイスマエルは、自分の人生の意味を理解していない。死んだと思っていた妻が20年ぶりに帰ってきたのだから。イスマエルは動揺し、執筆する脚本も混乱していくが、それでも物語の断片をひとつにしようともがく…。
デプレシャン監督はひとつひとつのシークエンスに力を込め、その繋がりよりも全体の強度に重きを置き、いくつかの死の形を通じて強く生を肯定する。マチュー・アマルリック、シャルロット・ゲンズブール、マリオン・コティヤールら人気俳優の共演もさることながら、虚実のコラージュから紡がれる命の実感を堪能したい。カンヌ映画祭のオープニング作品(カンヌでは114分の短縮バージョンが上映されたが、TIFFでは134分の「ディレクターズ版」を上映)。

上映後にアルノー・デプレシャン監督によるQ&Aがあった。

まずは司会の矢田部さんからふたつの質問。

Q1.10のストーリーは前からあたためていたもの?

A.断片的なストーリーをそのまま置いていた。
断片をそのままイヴァンの物語を監督が語るかたちに構築しようとした。
すると監督がどういう人かわからないことに気付いた。
映画の中に海辺のシーンがある。
海辺に女性がいてひとりの女性が近づいていく。
「まだ海水浴が嫌いなの?」
「何で知っているの?」
「彼の妻だったから」
3つのセリフから20年さかのぼるストーリーになっていった。

Q2.イヴァンの話よりイスマエルの話の方が大きくなっていったのか?

A.イスマエルのポートレート。変わった監督の話。
イスマエルが消えた弟の夢を語るがイヴァンのことを語るとビッグなスパイ映画になってしまうが私には撮れない。
他の物語を語った。

観客とのQ&Aに移行。
一人目は♂

Q.イスマエルとデプレシャン監督の共通点はあるのか?
マチュー・アマルリックへの要求は?

A.イスマエルという監督は私やアマルリックにはとてもできないことを自分に許している。
乱暴でエキセントリックで撮影から逃亡さえしてしまう。
私やアマルリックはより慎重でそんなことはできない。
薬も飲まない。
アマルリックへの要求はふたつの特徴を出すこと。
イスマエルは風変りで過激なのに一方で謙虚なところがある。
自分のことを監督ではなくフィルムメイカーと言っている。
また女性たとえばシャルロット・ゲンスブールに対して謙虚でつつましやかになれる。

矢田部さんから、ゲンスブールとマリオンの選定はどのように行ったのか追加質問。

A.まるで夢のようでした。
カルロッタは神話的なキャラクターで一度消えて戻ってくる。
マリオンは神話を作り出す力を持つ一方で単純であることもできる。
映画の中にカルロッタが踊るシーンがある。
あのシーンのカルロッタはただ生きているだけ。
神話を壊している。そういう能力がある。
ゲンスブールのシルヴィアは人生の傍観者。
灰の中の熾火だ。
灰を落とし生きろ自分のオウンライフをと言いたくなる。
彼女はラース・フォントリアーの映画で全く逆の生命力そのものの役をやっている。
と同時につつしみも兼ね備えている。

質問2も男性から。
音楽が印象的で色々なジャンルから選ばれているが選定の決め手は?

A.選曲は編集の時に編集台を前にして行っている。
ポイントは曲と曲をぶつかりあわせること。
ヒップホップとクラシック、ベートーベンとジャズのように。
理想はマーチン・スコセッシ。
一曲だけが例外で前から決めていた曲がある。
ボブ・ディランの悲しきベイブ。
権利を取り振付をする必要があったので。
マリオンに振付をする際に「グルーブはできる?」と聞いた。
するとマリオンは「とにかくかけてみて」
彼女はみごとなロックンロールにした。

質問3は女性でフランス語で質問。
前日監督の著書にサインをもらったとのこと。
監督の著書キングス&クイーンに「フィクションにはルーツもないトゥルースもない。すべてダスト」とあるがどこからアイディアを得るのですか?

A.フィクションはいたるところにある。
そして人生を祝福しより良いものにする。
例をふたつ。
①イスマエルはイヴァンとひどい関係だが、夢をみて冒険の物語をつくり関係を修復しようとする。
②脚本を書いている時パリの同時多発テロが起きた。
そして脚本が書けなくなった。
われわれは生きている世界の脆弱さを知った。
映画の中のキャラクターは知らない世界のできごとである。
そして脚本にテルアビブのシーンが加わった。
コメディーであり悲劇でもある。
イスマエルとアンリは牢獄で手錠をかけられてしまう。
これは新たな危険のある世界で生きていることをあらわしている。

質問4も男性。
監督は悪夢を見ることあるますか?それを作品に落とし込みますか?
人がいなくなってそれに気が付くのは普通ですがいなかった人が戻ってくる話にした意図は?

A.悪夢をみる時期はあった。
悪夢を作品に使うことはあるが悪夢で使うとは限らない。
この映画ではイスマエルが2枚の絵画をならべ遠近法を説明するシーン。
滑稽なシーンになっている。

カルロッタは不在となるが美しいと思うのはイスマエルが妻を失くした寡夫としていつまでも忘れていないところ。
カルロッタは亡霊のような存在でブルームは嘆くばかり。
埋葬して喪に服すことができない。
そこにカルロッタが戻ってくるのはイスマエルがようやく第二の人生を作ろうとする時だ。
新しい人生と前の人生、どちらが良いか答えはない。

最後にひとこと監督から

初来日したのは2本目の「たましいをすくえ」の時。
日本の観客が重要だと言ったのは、その時から始まった日本の観客との対話がなければ作品が作れなかったと思うから。
だからここに来られたことに感動していると言いました。

画像

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 『イスマエルの亡霊たち』 2017年10月28日 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
  • Excerpt: 『イスマエルの亡霊たち』 を鑑賞しました。 今年の東京国際映画祭での1本目の作品です。 【ストーリー】  A・デプレシャン監督の新作は、期せずして奇妙な三角関係に陥った映画監督の日常と、彼の創造す..
  • Weblog: 気ままな映画生活 -適当なコメントですが、よければどうぞ!-
  • Tracked: 2017-10-29 09:43