第一番 蒼猿
王将 昭和29年5月号
1954年上(第3期) 塚田賞(長編)受賞
詰手順は易しいので省略してもよいのだが(笑)以下のとおり。
9四銀行 8四玉 8五銀行 9五玉 9六銀行 8六玉 8八香 9七玉 5三角 9八玉 8七銀 8八玉 9七角成 同玉 9九龍 8七玉 9六銀 8六玉 8八龍 9六玉 8五銀 9五玉 9七龍 8五玉 7四銀 8四玉 8六龍 9三玉 4三飛成 同桂 9四歩 同玉 8五銀 9三玉 8四銀 8二玉 7三銀不成 9一玉 8一龍 同玉 7二銀成 9一玉 8二金 まで43手詰
作者自作の詩が添えられている。
【月と猿】
猿が四匹
手と手をつなぎ
谷の水面へ
下り藤
水にゃのんのが
笑ってござる
取らざなるまい
金の実を
腕は伸びぬし
水ア遠うござる
月はゆれます
気はあせる
そこで放せば
ざんぶり落ちる
月のかけらの
まん中へ
(昭和17年9月作詩)
【作者コメント】
樹上の猿猴が水面の月を獲らんとする図。
一幅の日本画を盤上に描いて見た。
題名は皎々たる月光に蒼濡れた猿と云う意。
なんとなく雰囲気はわかる(笑)
詩が添えてありなんともまったりした雰囲気の本である。
現代の詰棋本にはありえない。
さらに大塚播州氏の解説がつく。
【大塚播州氏解説】
追い趣向のひとつである。
先ず銀が上の銀の利き筋へ一つ一つ上がって四枚の銀が一本になる。
この趣向の狙いは、一本になった四枚の銀の消し方にある。
69の龍が8・9筋を一段づつ右斜めに玉を追い上げる度に銀が一枚一枚消えて行く。
趣向作品が生きた作品になるか否かは、使い終わった主構成成駒をそのまま放ったらかしにして収束させるか、全部消し終わって収束させるかにかかっており、その点作者はそつがない。
同じように小さくまとめた作品でも、“螢”の如く片道趣向の場合よりも本局のように、往復で展開した作品の方がまとまりがよく、作品価値、気品が高い。
命名の「蒼猿」については、作者に語ってもらう方が良いようである。
解説は他に岡田敏氏、門脇芳桂氏、巨椋鴻之介氏、吉田健氏、川崎弘氏。
錚錚たるメンバーが総力を結集して当たっている。
第二番 やすり
詰将棋パラダイス 昭和26年1月号
(詰手順)
6七と引 7九玉 6九馬 同玉 6八金 7九玉 7八金 8九玉 8八金 9九玉 9八金 同玉 4八龍 同金 9七と引 9九玉 9八金 8九玉 8八金 7九玉 7八金 6九玉 6八金 5九玉 5八と 同金 同金 同玉 5七と引 6九玉 6八金 5九玉 5八金 4九玉 4八金 同玉 3八金 5九玉 5八と 同玉 4八金 6九玉 6八と 同玉 5八金 7九玉 7八と 同玉 6八金 8九玉 8八と 同玉 7八金 9九玉 9八と 同玉 8八金 9九玉 9八金 8九玉 8八龍 まで61手詰
【作者コメント】
その巧拙は別として、私の趣向作が完全作として初めて世に出た記念すべき作品。
拾ってくれた人は当時詰将棋パラダイス、大学の選者兼解説者の土屋健氏。
氏は静岡県大仁で病院を経営する医師で、月報時代からの著名作家、図式習作集50番の著書があり、その名筆麗文を謳われていたが、狩野川台風の際その犠牲となられた。
秘かに師事していた私にとって痛恨の限りであった。
氏今日在りとせば詰棋界に寄与は計り知れざるだけに誠にいたましく残念であり、此処に改めて氏に感謝を捧げる次第である。
さて本局、現在ならもっと詩的な名を与えたであろうが、後半収束に到る手順に、直感的に閃いたのが、ギコギコやすりの音。
あっさり決めて了った。
私の持論である、構成・手順、共に詰将棋の持つ常識的な形式、条件にこだわらず、ただ只管、近代趣向詰として趣向そのもののロマンを追求し、表現せんとする実践的作品でもあった。
趣向=横型捨て送り
今回はここまで。
作者の感想や解説が面白くてそのまま記載。
To be continued 詰将棋雑談/将棋浪曼集②
いつになるか分からんけど😄
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